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「ファウスト」「若きウェルテルの悩み」「イタリア紀行」「詩と真実」などで知られるドイツの詩人ゲーテの言葉から、自分に役立ちそうなものを抜粋しております。気になった言葉や詳しい背景はご自身でお調べになることをおすすめします。

2025

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2016

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1823年11月24日の記録にこんなゲーテとエッカーマンのやりとりがある。

「君は素晴らしい才能があるね。もしよそから文学上の依頼が来るようなことがあったら、一応断るか、少なくとも前もって私に話してほしいな。こうやって一旦私との繋がりができたのだから、他の人との縁結びは、私は望んでいないのだよ」
「私はあなたについていきたいと思うだけで、さしあたりよそとの縁結びなど全然問題にしていません」――ゲーテとの対話(上)より。

 これはゲーテがエッカーマンを助手として引き留めるために、あらかじめ釘を刺しておいたのである。多忙なゲーテは自分の全集に関してさえ一人ではまとめきれなかった。かと言ってそこらの男を雇っても役に立たないし、役に立ってくれそうな男はよそでそれなり以上の賃金を貰っている。ゲーテにとってエッカーマンは、教養を身につけてやりさえすれば安価かつ有用な、願ってもない相手だったのだ。またエッカーマンはエッカーマンで教えられることを望んでいたのだから、両者の関係はWIN&WINで始まったと言える。
 ゲーテの死までの9年間で、エッカーマンは単なる助手から本当の友人に昇格していく。そして詩人の死後は、「ゲーテとの対話」を著して偉大な魂を保存する役を務めるのである。
 ゲーテは「対話」の存在を生前から知っていた。そしてエッカーマンにはその発行を己の死んだ後にせよと命じた。おそらく彼はエッカーマンの「対話」が自分にとってどういう書物になるのかわかっていたのだろう。
 エッカーマンの5つ年下だった詩人ハイネは「対話」に関してこう言っている。ゲーテは死後もこの世に己を残そうとした、と。事実エッカーマンの「対話」でゲーテの人生は芸術作品として完成した。自伝、日記、年代記、旅行記、書簡、戯曲に詩に散文に論文。ゲーテは実に様々な体験と知見を書き残したが、己の死だけは書けなかった。しかもエッカーマンが鏡となって記したのは、大成された老ゲーテだ。つまり最後に、ゲーテのゲーテたる結晶を取り出して保存する人物が現れたのだ。
 書物にはその運命がある。これはエッカーマンが「対話」の前書きに記した古くからある言葉である。エッカーマンの草稿を読んだとき、ゲーテは運命という魔神の大きな力を感じたのではなかろうか。
 詩人の死から200年近くを経てもなお、エッカーマンの残した結晶は輝き続けている。





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